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調律への道程・14

『ディシプリン』というのはつまりこういう意味だ。辞書的に。

disciplineは「弟子(disciple)、門人の教育」が原義。
そこから転じて「訓練」「鍛錬」「修養」「躾」「規律」「風紀」「統制」「懲罰」「調教」「懲戒」「折檻」など等。
近頃では、SMプレイそのものを示すバヤイもありますな。

世界のロックバンドのみなさんもこの言葉が大好きで、
古くはキング・クリムゾンやスロッビング・グリッスル。
新しめのところでナイン・インチ・ネイルズなどが、「Discipline」という曲をヤリまくっている。
ジャネット・ジャクソンも。

僕は高校生の頃、TGなどのノイズ音楽が大好きだった時期があり、
自我の形成と共にディシプリン観が確立したのかもしれん。

長いつきあいになる。
まさかその名を冠した作品を自分が作ることになるとは思いもしなかったが。

長い人生において道を迂回するということはままあります。だが、それが無駄に終わることはない。
勝新太郎の残した言葉はまったくもって正しい。

そういう意味では、構想25年に及ぶ『ディシプリン*帝国の誕生』こそ僕が本当に作りたかったゲームなのだ。

責任重大である。己の存在証明がかかっているのだから。
いくらなんでも自分に対する裏切りはマズい。10代の自分をがっかりさせるわけにはいかない。

昨今主流のゲームとは明らかにルックスやフィーリングが異なっていたとしても、そこを曲げることは死ぬのと同じくらい恐ろしい。

ボブ・ディランがエレキを持ち、ボアダムズは思わぬ方向に進化を続け、トゥーリアのバリライトが落ちた。
ほら、琵琶法師が語っているよ、石は転がり、時代は変わると。

ゲームだって時と場合によって、ものすごく売れちゃったり、まったく売れなかったりする。
そんなことはいいんだ。わしらが心を遣わなければいけないのはそこではない。
それはバイヤーに任せる。
われわれは、浮世にあっても、変わりようがないこと。それをゲームにしなくてはいけない。

オレはシャツの袖をめくりあげ、白くてぶにぶにの上腕を針先でつついた。
discipline主義者の証を立てるため、「discipline」の文字を刻みこもうと思ったのだ。

でも、痛かった。
痛かったので、無理だった。
無理だったので、せめてゲームだ!

どこかで緊急車両のサイレンが鳴っている。その音はどんどん大きくなる。
アカイ回転体が近づいてくる。ほら、すぐそこ。
どこ。ここ。

*この稿は、柏木村公園で行われた企画会議を再構成したものです。
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  by kazutoshi_iida | 2009-06-26 13:43 | 飯田和敏・記 | Comments(2)


調律への道程・13

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最初の打ち合わせは、西新宿の片隅にある柏木村公園において。
ここは様々な人々が集う憩いの場所だ。

小一時間過ごすだけで、
Dealers,Thieves,Whores,Junkies,Creeps,Drunks,Teasers,Holy joes,Cops ,
Hustlers,Death等がどこからともなくやってくる。
お笑い芸人が稽古をしていたりもする。

ビジュアル系洋品店や萌えマッサージパーラー、海賊版レコードショップや有名ラーメン店などの林立地帯のど真ん中にあるエアポケットだ。
淀みの隙間。
そこで交わされる会話に装飾はいらない。

打ち合わせを会議室で行儀良く行うよりは、
こうした場所でノイズ(あるいは飛び交う言霊)を拾いながらの方が、
このプロジェクトの性に合っている。

出来ればこの公園をまるまるオフィスにしたいくらいだ!
もちろん、電源やセキュリティーの問題があり、そういうわけにはいかなかったのだが。

しかし、『ディシプリン』青空ミーティングスペースとしてこの公園には連日のように訪れることになるのだった。
寒い日も、暑い日も。
晴れの日も、雨の日も。
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  by kazutoshi_iida | 2009-06-22 11:50 | 飯田和敏・記 | Comments(0)


調律への道程・12

まだ正式に依頼出来たわけではないのに、Lucからどんどんスケッチが送られてくる。
描いているのは、おそらく同室になった人物たちだろう。
どの顔も曰わくありげに見え、キャラクターとしてそそる。

ゲームの骨子はLucによってもたらされた事は間違いない。
ただ、彼とは旅行中に知り合ったという関係で、実のところ、その人となりはよくわかっていない。
現在の居所はよくわからないし、連絡手段も国際郵便のみだ。
言語の壁によってコミニュケーションが円滑だとは言い難い。
業務委託を成立させるための問題は山のようにある。

そう。これから始めることは、遊びではない。社会的責任が生じる仕事だ。
信用に足る材料は、目の前におびただしいスケッチしかない。

ただこれは遊びを作る仕事だ。
障壁の前で佇んでいても、世界は何も変わらない。

翻って自分自身の事を考えてみれば、僕だってLucと同様のイカガワシイ存在であることに変わりない。
僕にあるのは過去に作った作品だけで、それを信用してもらっている。

Lucを起用することはリスクも高いが(というか通念上ありえない)、
しかし、抗いがたい魅力を放つ絵が目の前にあるのだ。
無理を通して道理を引っ込ませるしかない。
それをやってのけてこそ遊びの仕事、仕事の遊びである。

ゲーム画面を検討する打ち合わせの日、
僕はどこの馬の骨とも知れぬ人物(ごめんよLuc!)がハイペースで送ってくるスケッチを携え、
指定された公園へと赴いた。
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  by kazutoshi_iida | 2009-06-21 02:06 | 飯田和敏・記 | Comments(1)


調律への道程・11

『ディシプリン』のプロデューサー和田さんのブログが話題になっている。
「まだ、死にたくない・・・」

モノは壊れ、ヒトは死ぬ。組織だって同じだ。
永遠に続くものは存在しない。

彼が言っているのは、そういう当然の話ではない。
では、何が死にそうなのか?

ゲーム開発の開拓精神だ。

何もないところからテレビゲームは始まった。
世界の扉を無理矢理こじ開けて、テレビゲームという豊かな遊びを確立していった。
やったのは、ゲームという新しい遊びに痺れたボクとキミ、アナタとワタシ、オレとオマエ。たちだった。

クリエイターもプレイヤーもメディアが共犯関係を結び、世界を更新した。
その精神のあり様がわれわれのただ一つの拠り所である。

それがいま、死に体の危機、風前の灯火にある。ヤバイ。
そういう話である。

CDが売れなくなり、音楽出版社や小売店は苦戦を強いられている。
これはディストリビューションの問題である。音楽そのものの価値にまったく影響はない。
ロックンロールは今でも人を勇気づけている。

変わるものと変わらないものがある。
オレとオマエはゲームの快楽を知っている。それは変わらない。
しかし、オレとオマエが開拓の精神を失ってしまったらゲームオーバーだ。

『ディシプリン』制作の道のりは平坦なものではなかった。
いつ頓挫してもおかしくなかったと思う。
和田さんはプロデューサーとしてそれを死守した。
われわれはその恩義に応えるため、彼をもっと困らせなければいけないのだ。
お互いに涙を流しながら殴りあう。
そこから紡がれたメロディーが『ディシプリン』のオープニング曲「男たちのハミング」になった。

なぜそんな事をしてるんだっけ? それを考えたらこころが折れてしまう。
今はまだ、いい。
テレビゲームが役目を終え、この世から消えてなくなる時に考えればいいのだ。

その時が来るまで、オレたちは大騒ぎを続けていよう。

『ディシプリン』がようやく始まろうとしている。
しかし、テレビゲームの世界はプレイヤーが遊ぶことによって、はじめて立ち上がる。
そこからが本当のキックオフだ。
そのようにクリエイトされるれ『ディシプリン』の世界がどんなものなのか、オレにもオマエにもまだわからない。

だからこそ、わくわくする。

だからこそ、まだ死ぬわけにはいかない。


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Lucのスケッチをもとに、コントローラーのモックアップが作られた。
段ボールを開いた瞬間、シリコンの青臭い香りがした。
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  by kazutoshi_iida | 2009-06-17 13:36 | 飯田和敏・記 | Comments(3)


調律日誌

本日、データロック。
万感の想いを込めて最後にしたためたセリフ。

「とてもまっすぐなテノールであった」

以上、作業終了!
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  by kazutoshi_iida | 2009-06-16 19:32 | 飯田和敏・記 | Comments(8)


調律への道程・10

網走へ!!
網走に行かなくてはいけない。
取材というか、人間の思考の残滓を存分に浴びるために。

自腹で!!
自腹で行かなくてはいけない。
命くらい大切な身銭を切ってこそ、得られるものがある。
僕はそのように考えている。

天候状況が悪く、飛行機が着いたのは旭川であった。
女満別までバスが出たが6時間もかかった!
北海道はでかい。「未知との遭遇」のまっすぐ道路みたいに道路がまっすぐだ。

北見を通過! ルゥルールルルルー♪
ヒグマドンがいた! ガオーッ!
知床岬にも行ってみた! 俺たちのことを想い出した!
海産物が美味過ぎて、しかも安いので、うに! うに!

観光してるバヤイじゃなかった。目指すは網走番外地。
幸せの黄色い木綿のハンカチーフ。

で、まっすぐ道路をまっすぐマルホランドドライブして辿り着いた網走市には、
目黒エンペラー的なメッカがドドーンとそびえたっていたのだった。

そこでオレ、写真! 撮る! 露出! 計る! キシン! 激写! 頭! モジャモジャ! 三脚!  
僕はもう、君に夢中さ。うっとりさ。感じまくるのさ。
堪能した。

こうしてモチベーションをアゲにアゲ、極限的にマキシマム・ザ・状態になったところで、『ディシプリン*帝国の誕生』の制作がスタートしたのであった。

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湯加減いかがすか?
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  by kazutoshi_iida | 2009-06-12 14:05 | 飯田和敏・記 | Comments(5)


調律への道程・9

「あたらしいゲーム」を作るにあたって打ち出したい路線は、
小回りの効く比較的小さな作品を出来るだけ低価格で販売することだった。
それにはwiiwareをはじめとする配信サービスが最適だ。
なぜ、PS3やXbox360ではなくwiiなのか。
それはLucによる導きとしかいいようがない。

ゲーム内容は、社会にシステムとして存在するけれど、実態はなかなか知ることが出来ない事物。
それを題材にしたい。
教育ソフトの一面もある「社会見学」的なシリーズだ。

書籍で言えば、これはまぁ、新書や文庫だと。
よし、よし。このシリーズは海亀文庫じゃねーの?

「ウミガメのスープ」というクイズというかおはなしというかゲームというかそういうものがありますが、
ここで言うウミガメのスープは、すなわちアレのスープ。
ブラックだし、パンチが効いている。

それと海亀の産卵。僕はこれを屋久島で見たことがある。
有名な話だが海亀は産卵する際、目から涙を流す。
実はそれは涙ではなく単なる粘液だ。
ただの生理現象に過ぎないのだが、見る側の心には迫るものがあり、思わずウルッと来てしまった。

また、孵化してもほとんどの海亀の赤ちゃんは弱くて死んでしまう。
その代わり、一度の産卵で大量の卵を産む。

僕と和田さんが立ち上げたかったのは、涙なのか粘液なのかを流しながら、大量にあたらしい命の種を産み出すゲームシリーズだ。

これが「海亀文庫」の由来である。

Lucに負けない絵を描かなければいけないと思い、気合いで海亀の絵を描き、それをロゴとした。
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これはロゴにする前の素材。広告の裏紙に描いた。
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  by kazutoshi_iida | 2009-06-11 15:00 | 飯田和敏・記 | Comments(225)


調律への道程・8

どうやら僕は不審者らしい。
職務質問を受けるのだ。平均すると、1年に4回くらいだ。
以前はカリカリ来て、こっちからホンモノの警官かどうかを調べたりしていたもんだがあまりにもうざいので、
あらかじめカバンをフルオープンにして往来を行くようになった。
そうすると逆にヒット率があがったりするから不思議だ。

このゲームの企画を考えながら渋谷で職質を受けた。奇しくも、否牡蠣メンバーが捕縛された場所である。

この時は説明するのがいささか面倒くさい物が入っていた。
それはイリーガルなものではなかったが、日常の中に飛び込んできたらギョッとするものではある(そういうものは沢山あるが)。

なので、ちょっとばかし抵抗した。
パンダカラーの車両が横付けにされていて、ドライブしようと誘われた。
任意なので拒否したが、あまりにもしつこく誘われるので車に乗ってしまおうかとさえ思った。
頭をかがめた瞬間、あ、これでどこかへ連れて行かれて身体を拘束されてしまったら、しばらくの間、いきっぱなしという可能性がある。
そしたら、ゲーム制作どころじゃなくなる。
何かをしたかどうかが問題なのではなく、斯界への入り口がいたるところにあるという事実。
常にカメラで監視され、でも、それで悪しき出来事を防げているのか?

*帝国はすでに誕生していて、僕たちは否応なくその中で生きているのであった。
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  by kazutoshi_iida | 2009-06-10 13:45 | 飯田和敏・記 | Comments(6)


調律への道程・7

和田さんとは打ち合わせを重ねていった。
10くらいのプランを出したと思う。
その中のひとつが「ディシプリン*帝国の誕生」の原型だった。
小沼ガイラに敬意を表して「箱の中の*」と名づけてあった企画だ。

密室に閉じこめられた主人公の自分探しのゲームだ。
これまでの僕のゲームは「自由」がテーマだった。
それは変わっていない。
自由をもっと追求するため、究極の不自由を描く必要があると思っていた。
はからずもLucという友人がいまそんな場所にいる。

和田さんもこの企画に強い関心を示した。

こんなものがありますと、僕はLucの描いたスケッチを見せた。
それが決定打となった。

「これを作りましょう」

その晩、僕はLucに長い手紙を書いた。
フランスでは話さなかった僕の仕事について。
20年間、ゲームを作り続けてきて、登った山と暗い谷底のこと。
そしていま感じていること。

君に次のゲームのアートワークをお願いしたい。
君は何かと不便な境遇にいるのかもしれないが、出来るだけの便宜は図ろうと思う。

Lucからの手紙にはひとこと「Oui」と記されていた。
はは、これはWiiで作るしかねーよな。

アイディアの狙いが絞られ、ハードが決まり、デザイナーがいる。
プロデューサーがいて、そして作りたいもの、作らなければいけないものがあると感じている。

もう飛び込むしかない。
創造の混乱をおそれていた僕にさよならして。
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  by kazutoshi_iida | 2009-06-09 16:03 | 飯田和敏・記 | Comments(3)


調律への道程・6

Lucとの海を越えた文通が続いていた。
基本はフランス語なので上手にコミニュケーションは出来なかったが、手紙に必ず添えられている彼の絵はどれも素晴らしいものだった。

君がいま見ている世界をもっと見せて欲しい、と何度も催促した。
それは単純な興味本位に過ぎず、その時点ではまだ、彼の絵とゲーム制作は結びついていなかった。

また、何度も、なぜ君はこのような場所にいるのか? と尋ねたのだが、いつもはぐらかされてしまった。
「ここのムール貝はなかなかイケル」とか、「モンマルトルの夕陽のせいさ」とか、そんな答えばっかりだ。
僕のフランス語での聞き方まずかったのかもしれない。

「kaz(彼は僕をこう呼ぶ)、昨夜はこんな事があったよ。同じ部屋の中年男が突然、一物を体の中から取り出したんだ。そしてその男が言った。“こいつがオレの頭に命令をして、肉体をコントロールしている。オマエたちのコントローラーはどんなものなのか? ”って。オレはその申し出を丁重に断ったのだが、ヤツのものがあまりにも愛嬌があったのでスケッチしたよ、どうだい?」

添えられた絵を見た瞬間、衝撃が走った。
これってゲーム機のリモコンでは?

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Lucからの返信は「Oui」だった。
そっか。

僕の頭の中で、それまで断片的だった新作ゲームのアイディアが急速にまとまりはじめた。
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  by kazutoshi_iida | 2009-06-06 17:08 | 飯田和敏・記 | Comments(0)


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